私はとってもチキンなので、恐怖映画というジャンルの映像はまったく見ないのですが、なんでも「虫ホラー」というカテゴリーがあるそうです。小さい生き物が、ウジャウジャと人間を襲いにくる映画ですね。あー、イヤダいやだ。襲われるのが怖いというだけでなく、小さい生き物が大量にうごめいている光景には、フツーの人は生理的嫌悪感を抱くと思うのです。ウィキペディアによれば、2015年にカナダのホラー映画専門のニュースサイト「HORROR‐MOVIES.CA」において、虫ホラー映画の1位に選ばれたのは、ミミズが猛アタックしてくる映画だそうです。その名を『スクワーム』(1976)と言います。もちろん私は見ていませんし、死ぬまでにも見ることはないでしょう。DVDは日本でも売っているようですが。
さて、まったく話は変わるのですが、カリフォルニアでは、何年か前から干魃が続いていました。ご存じのように、カリフォルニアでは春から秋にかけてのブドウ生育期間にはほとんど雨が降らず、晩秋から初春にかけてまとめて降ります。しかし、2011~2012の冬場から、ずっと十分な雨の降らない年が続いていたのです。2011~2012の冬については、平年の85%程度とまあ騒ぐほどではなかったのですが、そのあとの3年間はもうカラッカラ。このまま続いたら、カリフォルニアの農業はどうなるんだあという感じでした。今年の冬は、久しぶりにまあまあの量が降ってくれたので、皆一息つけたのですが、それでも平年の75%程度とまだ物足りない水準です。今年は、普通ならば雨が多くなるエルニーニョ現象の年でして、もっとたっぷり降ることが期待されていただけに、ワイン生産者の不安は今も解消されてはいません。
この干魃が一時的なものなのか、この先恒常化するものなのかはまだなんとも言えません。いずれにせよ、水の確保は目下、カリフォルニアのワイナリーにとって大変深刻なテーマになっています。「以前のようにドライ・ファーム(灌漑なしでのブドウ栽培)に戻るか」と、考えはじめる栽培家も増えているそうです(カリフォルニアに灌漑が広く普及したのは、そう昔のことではありません)。そこまではしないにしても、日々ワイナリーでの作業には大量に水を使うので、せめてその排水をなんとか再利用したいところ。ブドウ畑に回せれば、ずいぶん灌漑用水の節約になるのです。なんでも、グラス1杯のカリフォルニアワインを生産するのに、50リットル以上の水が必要だそうで、その大半が醸造・熟成器具の洗浄に使われているのだそう。なので、カリフォルニアの多くのワイナリーが、排水をリサイクルするための設備を自前で備えています。ため池に排水を溜めて、定期的に空気をポンプで送り込み、バクテリアの力で浄化するという仕組み。ただ、この方法では水がキレイになるまでに数週間以上という長い時間がかかるうえ、ポンプを稼働させるための電力消費も馬鹿にはならず、といった色々な問題があります。
そんな中、とってもエコで効率的な排水の浄化方法が、BioFiltroというチリの会社によって開発されました。カリフォルニアのワイナリーで、すでに利用をはじめたところがあるそうなのですが、それは大量のミミズを使うというものです。
BioFiltro社は、処理すべき排水のタイプに応じて、最適な種類のミミズとバクテリアの混合部隊を提供してくれます。ワイナリーでやることといえば、働き者のミミズとバクテリア、そして土がみっちりつまった大きな容器に排水をふりかけるだけ。そうするとあら不思議、たった4時間でキレイな水になるらしいのです。電気もほとんど必要ではなく、排出されるのはミミズのウンチだけ。それも畑の肥料に回されるというのですから、まあよくできた話です。
幅10メートル、長さ60メートル、高さ2メートルの巨大容器に投入されるミミズくんの数は、1立方ヤード(約0.8立方メートル)ごとに1.2万匹だそうですから、容器全体で1,800万匹という計算になります。まさに超強力なスーパー・ウジャウジャですね。ザ・虫ホラーです。
この1,800万匹のミミズくんを目下飼っているのは、メンドシーノ群に本拠を置くとある大手ワイナリーなのですが、怖い物見たさでちょっと見学に行ってみたいなあ。でも、『スクワーム』の映画みたいに、1,800万匹のミミズが凶暴化して襲ってきたらどうしよう。今日の夜は、ひとりでトイレに行けそうにありません。
(参考サイト)
http://biofiltro.com/en/clean-it/
http://www.theguardian.com/…/california-winery-eco-friendly…
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立花峰夫:
ワイン専門翻訳サービス タチバナ・ペール・エ・フィス代表。
ワインライターとして専門誌に寄稿も行う。訳書・監修書多数。
(タチバナ・ペール・エ・フィス: http://www.tpf.kyoto.jp)
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