アメリカ人はジンファンデルが好きです。私もジンファンデルが大好きです。が、日本では爆発的な人気というわけではありません。でもこの品種、もっと愛されていいと思うのです。
毎年2月、サンフランシスコではジンファンデル好きのための一大イベント、ZAP Zinfandel Experienceが開かれます。今年は2月23日から25日までの3日間でした。このブドウからワインを造る生産者がカリフォルニア中から集まり、大試飲会あり、ディナーあり、セミナーあり、オークションあり、笑いあり、涙ありの充実のプログラムが繰り広げられるのです。楽しいです。ファンにはたまらないイベントです。ZAPというのは、Zinfandel Advocates and Producers(ジンファンデルの支持者&生産者)の略。ジンファンデルの啓蒙・普及を目的として、1991年に設立された非営利団体で、250以上の栽培家/生産者のほか、数千人の支持者が加盟しています。
世は土着品種ブームのまっただ中であり、カリフォルニアでもやれリボッラ・ジャッラだの、アルバリーニョだの、オルタナ系への取り組みが盛んになりつつあります。ただ、こうした変わり種の品種は、別にアメリカの固有種というわけではありません。カベルネやシャルドネよりマイナーだというだけで、ヨソの国の品種だという点は一緒です。でも、ジンファンデルはちょっと違う。乱暴に言うと、アイツは今やアメリカの土着品種なのです。
もちろん、ジンファンデルもヴィニフェラですから、ルーツはヨーロッパですよ。21世紀に入ってまもなく、長年謎とされていたジンファンデルのルーツは、クロアチアのトリビドラグ(ツールイェナック・カステランスキー)という品種だということがわかりました。ただ、故郷のクロアチアではこの品種、今ではほとんど栽培されていません(カビに弱いブドウなので、湿潤なヨーロッパでは栽培が難しいのです)。カリフォルニア以外でまともにこの品種を育てているのは、クロアチアからアドリア海を挟んだ対岸のイタリア・プーリア州ぐらいです(かの地ではプリミティーヴォの名で知られています)。なお、ジンファンデルのルーツをDNA鑑定で解明したのは、「ブドウ探偵」の愛称でも知られるUCデイヴィス元教授のキャロル・メレディス大先生。この先生、退官後の今は、マウント・ヴィーダーでご亭主と一緒にすばらしいシラーを造っています(布袋ワインズ取扱いのラジエ・メレディスです)。
ジンファンデルがアメリカに入ってきたのは、1820年代末のこと。ウィーンの育苗所から、東海岸へと輸入されたいろんな苗木の中に、このコは混じっていました。ただ、アメリカについた時には名無しのゴンベさんだってようで、ジンファンデルというのはアメリカで付けてもらった名前です。カリフォルニアで栽培が広がったのは19世紀半ば、ゴールド・ラッシュの頃でした。こうした出自も、このブドウがアメリカ人に愛される理由のひとつなのだろうなと思います。移民の国ですからね。
ジンファンデルには、カベルネやピノ・ノワールのような高貴さはないかもしれません。が、この品種にはグラスから溢れんばかりの豊富な果実味があり、とてもチャーミングです。ワインを初めて飲む人でも、すっと入っていける素直な味わい。軽いものから重たいものまでフルレンジがあり、甘口のロゼ(ホワイト・ジンファンデル)になったり、遅摘みの甘口になったりもします。一般には早飲みの品種だと考えられていますが、樹齢の高い古木から生まれたワインには、高貴品種に負けないぐらいのストラクチュアがあり、長期熟成もします。この品種には、禁酒法時代(1920~1933)を生き抜いたふるーい畑がまだそれなりに残っていて、そうした果実から生まれるワインには、とんでもないものがあるのです。筆者が飲んだ一番古いジンファンデルは1934年のもので、今から10年ぐらい前に飲んだので70年以上がその時点で経過していたのですが、まだ果実味に若さがある、実に見事な古酒でした。
この品種を偏愛する者のひとりとして、日本でもっと普及させるために何かしたいなあとずっと考えておりまして、ご賛同者大募集中です。とりあえず、皆でもっとジンファンデルを飲みましょう。
http://www.zinfandel.org
http://www.zinfandelexperience.com/events-at-a-glance
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立花峰夫:
ワイン専門翻訳サービス タチバナ・ペール・エ・フィス代表。
ワインライターとして専門誌に寄稿も行う。訳書・監修書多数。
(タチバナ・ペール・エ・フィス: http://www.tpf.kyoto.jp)
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