ヒップスター・ソムリエのひとりにして、カリフォルニア・ワインのエキスパートである千葉和外さんと先日お会いした際、カリフォルニア産シャルドネの仕込みについての話題になりました。1990年代に、カリフォルニア産シャルドネはドドっと、「いわゆるブルゴーニュ風の造り」へと流れたのですが、はたしてそれが必要だったのかと。千葉さん曰く、「カリフォルニアのブドウは、そもそも素材の時点で味がしっかりしている。だから、マロラクティック発酵やバトナージュといった味に厚みを出すためのテクニックは、ブルゴーニュのブドウならやったほうがいいけれど、カリフォルニアではどうなのか?」というお話。なるほど。クロワッサンにバターを塗るようなもんですな。もとからたっぷり入っているのだと。
とはいえ、バターを塗らない造り手だって中にはいるわけです。シャトー・モンテレーナもそんなシャルドネ生産者。ここのシャルドネ1973は、例の「パリスの審判」で一等賞を取ったものなのですが、バターを使わないその頃の仕込みをほとんど変えていません。ステンレスタンクで発酵させたあと、主に古樽で熟成。新樽比率は10~15%と低いです。マロラクティック発酵は行わず、バトナージュもとても控えめ。仕込みの流れで変わった点といえば、以前は全量について圧搾の前に破砕・除梗をしていたのが、一部全房圧搾をするようになったことぐらい。ただし、特定のクローンのシャルドネについては、その味わいの個性を引き出してやるために物理的な力をかける必要があるそうで、そのロットについては今も必ず破砕・除梗をするのだということでした。なお、摘み取り時のブドウ糖度も、23度前後と「パリスの審判」の頃のままです。
もちろん、モンテレーナも細かい改善は畑・セラーの両方であれこれ重ねてきています。十数年前からシャルドネの摘み取りを夜間にするようになっていますし、セラーも2011年に大改装。タンク内で沸いているワインの温度を、醸造責任者のスマホで管理できるなど、今風ハイテクもしっかり入っています。しかし、ワインの「芯」の部分を構成するところについては、頑固一徹な感じで変えていません。
モンテレーナの信条は、「料理にあい、長期熟成するワインを造ること」。ここのシャルドネの味はまさにその通りで、押しが強すぎないのでたしかに料理にはよく合いますし、10年ぐらい置いてもキレイに熟成します。流行に左右されずとも看板をピカピカに保てるのは、輝かしい実績のある老舗の強みですね。
モンテレーナのほかにも、1970年代風シャルドネの仕込みを守っている老舗はいくつかあります。また、過去数年に出てきたIPOB系の造り手も、個々の技術選択はともかくとして、方向性としてはあまりバターを塗らない人がほとんどです。先日来日したジョン・ボネもセミナーで言っていましたが、40年のあいだに流行が一周し、また同じ場所に戻ってきた感じですね。そういう意味ではすでに、バターたっぷりのシャルドネのほうが、逆にレトロに攻めていて新しいのかもしれません。
Ch. モンテレーナ:
http://www.hoteiwines.jp/winery/winery_detail.cfm?dmnID=18
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立花峰夫:
ワイン専門翻訳サービス タチバナ・ペール・エ・フィス代表。
ワインライターとして専門誌に寄稿も行う。訳書・監修書多数。
(タチバナ・ペール・エ・フィス: http://www.tpf.kyoto.jp)
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