日本には、露天風呂で日本酒を飲むという素敵な文化があるのですが、私はやったことがありません。風呂に長く浸かっていられないからです。すぐのぼせてしまう体質でして。日がな一日飲んでいるくせに、シャワーや風呂のときだけは飲みません。
しかし、世の中には長風呂好きの人が一定比率いるようです。本を読んだり、音楽を聴いたり、映画をみたり。私にとっては異文化ですが、なんだか楽しそうだなという憧れはあります。
そんなわけで、ワイン好きの方の中には、風呂場でワインを飲みたい人がきっとたくさんいるのだろうと。いや、すでに実践している人も珍しくないのかもしれませんね。1年半ほど前、アメリカの『FOOD&WINE』という雑誌のウェブ記事として、「風呂飲みワインの究極指南」という記事が出ました。5つのアドバイスが書かれているのですが、
1)アイスバケツを用意せよ
2)グラスの置き場を確保せよ
3)適切なグラスを選べ
4)爽やかなワインを選べ
5)シャンプーなどの匂いとぶつからないワインを選べ
というものです。1)と4)は大雑把に言うと、風呂場は暑いから爽やかなワインを冷やして飲むほうがおいしいよ、という話。3)は、水滴なんかがワイングラスに入らないよう、口のすぼまったやつにしようという話。5)は、風呂場はいろんな匂いがするからそこに気を遣いましょうという話。ふんふん、ためになりますね。
2)も大切です。記事中では、風呂場のカベに吸盤でくっつけるワイングラス・ホルダーが紹介されているのですが、日本で同じものは売られていない模様。ただし、ワイングラス・ホルダーもついた、「バスタブ・トレー ブックスタンド付き」という素敵なグッズが、アマゾンで売られていました。下記リンクをご参照ください。
https://www.amazon.co.jp/dp/B06W9JCKWM/ref=sr_1_1…
この『FOOD&WINE』の記事が男らしいのは、「風呂に浸かりながらワインを飲むと、えらく回るから注意しましょう」という当然必要な警告について、一言も触れていない点です。日本のグーグルで、「飲酒 風呂」と検索ウィンドウに入れると、「飲酒 風呂 溺死」とか、「飲酒 風呂 気絶」とか、そんなキケンな検索候補がたくさん表示されます。どうやら、よいこのみんなには、風呂ワインを禁止しといたほうがよさそうですね。どうしてもやるなら自己責任でやりましょう。
しかし、いつでもどこでもワインな私でいたい、という愛好家の欲望には果てがありません。イギリスのワイン雑誌『Decanter』では、2009年に「ワイン好きならやらねばならない40のこと」みたいな特集がありました。ウェブ版にも記事があがっていましたので、興味のある方は下記<参考サイト>のリンクをご覧ください。40のリストの中には、「シャンパーニュをサーベラージュする」とか、「生まれ年のワインを飲む」みたいな可愛いのも多いのですが、「栽培醸造家と結婚する」みたいな、非常に難易度の高いことも含まれています(風呂ワインは含まれていません)。
極め付けは、紙版の雑誌では5つめの「やらねばならない」として挙げられていた、「ブドウ畑で××××をする」というもの。ウェブ版の記事では、該当箇所がバッサリ削除されているのが笑えます(その割に、ウェブ版記事のタイトル「Sex in a vineyard and 39 other things every wine lover should do」には残骸が見られるのが不思議です)。「ウチの畑で××××するやつが続出して困る」というクレームが栽培農家からあったのか、それとも単に公序良俗に反していたと反省したのか。紙版の特集にはたしか、マイケル・ブロードベント翁の思い出話として、「昔、ヨメとブドウ畑で××××した」という、生々しい話も書いてあったんですけどね。読んだときは、「攻めてるなあ」と感心したのですが、世間の圧力に負けたようです。
10年ほど前、筆者は腕にタトゥーを入れようと真面目に考えたことがあって、「Château Margaux」とか、そんなベタな文字モノにしたろうと思案していたのですが、周囲から「アホか」「面白くない」とさんざんケナされて思いとどまりました。今からでも遅くないかなあ。肌がたるんでいても、タトゥーはキレイに入るのでしょうか。ワイン関連のタトゥーを入れてらっしゃる方、ぜひコメント欄にお写真を投稿してくださいませ。
<参考サイト>
http://www.foodandwine.com/blogs/ultimate-guide-shower-wine
http://www.decanter.com/…/sex-in-a-vineyard-and-39-other-t…/
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立花峰夫:
ワインスクール「アカデミー・デュ・ヴァン」スクールマネージャー。
ワインライターとして専門誌に寄稿も行う。訳書・監修書多数。
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