SF映画の超名作『ブレードランナー』(1982)の続編、『ブレードランナー2049』が封切られました。本コラム執筆時点(10月末)ではまだ劇場に足を運べていませんが、下馬評もなかなかよいので、観るのを楽しみにしています。『ブレードランナー』ってナニ?というよい子のために軽くご説明しますと、完璧なAI(人工知能)と身体を備えた人造人間「レプリカント」が、人間様に反逆したので狩りましょう、みたいな話です。というと、ちょっとバカみたいですが、「人間のアイデンティティとは何か」というふかーい哲学的問題をも考えさせてくれる作品でありまして。詳しくはウィキペディアをご覧ください。なお、AI関係のSFだと、『エクス・マキナ』(2015年)というイギリス映画も、いろいろ考えさせてくれる優れモノでした。
さて、今回のテーマはAIです。ワインの製造現場は、樽だのアンフォラだの相変わらずのローテクざんまいなのですが、流通の現場にはちゃーんと最新テクノロジーが入り込んできています。AIにワインを選ばせましょう、というのはここ2、3年のトレンドでして、日本でもそうしたサービスが出てきました。顧客の好みや気分、過去の購買・選好履歴などをもとに、「今日あなたが買う(飲む)べきなのはこのワイン。さあ、ここで買えますよ」とお勧めをしてくれるわけです。このテのサービスは、アルゴリズムの出来不出来もさることながら、抱えているデータ量が多ければ多いほど、レコメンドの精度が上がるものと思われます。なので、多くのユーザーを抱えているところほど有利。そこでこのたび満を持して登場したのが、ワイン検索の巨人wine-searcherのAIチャットボット・サービス、「ケイシー Casey」なのです。
https://www.wine-searcher.com/chatbot.lml
ケイシーは、「なーんか今日はワインの気分なんだよね。で、ナニ飲もうかね」みたいな曖昧なニーズを持っている人に、あれこれ質問を投げかけ、対話しながら品選びを手伝ってくれるAIです。ワインを絞り込んだら、利用者のIPアドレスから居住地域を割り出し、「ここでこの値段で買えますよ」と、購入可能先を紹介してくれます。そこで売買が成立したら、wine-searcherにチャリンと手数料が入るというモデルでしょうね。下記の紹介記事によれば、現在wine-searcherに登録されている銘柄数は114カ国で50万件(すべてのワイン販売店の、のべ件数では800万件)と大変に膨大です。そのデータベースに向かって、世界中のワイン好きや業者が日々価格などの検索をしているのですから、AIの精度にも期待が高まります。
で、実際にちょっと使ってみました。
ケイシーのページに入ると、最初にAIが自己紹介をしたあと、まず「料理と一緒にワインを楽しみたいの? それともワインを飲みたいだけ?」と聞いてきます。
私「料理と楽しみます」
AI「ナニを食べるのかな?(ステーキ、ハンバーガー、ピザ、フライドチキンなど選択肢が10ほど並ぶ)」
私「じゃあフライドチキンで」
AI「ワインの予算は?(また価格帯の選択肢が登場)」
私「25~40ドルで」
AI「それはすばらしいですね!・・・・・・でも、あの、すみません、あなたの近くでは、ふさわしいワインを見つけられませんでした。検索条件を変えて、もう一回やってください」
このアホ。こんなカンタンな質問にも答えられんのか。どうやら日本のワイン販売業者の登録数が絶対的に不足しているようで、東京付近においてケイシーは、料理に合わせたお勧めワインをなかなか見つけてくれませんでした。
最初の質問に戻り、料理との相性はあきらめて「ワインを飲みたいだけ」と答えると、品種と価格帯を聞いてきます。が、これも両方を選択すると、やっぱりお勧めが出てきません。品種だけ選ぶと、いくつか候補が表示されますが、とっても気が利いているという感じではないですね。登録販売店舗数が多いであろうアメリカで試したら、もっとケイシーは賢いのでしょうか。いずれにせよ、まだまだそのQ&Aはとても原始的で、「知能」と呼べるレベルではないようです。
下記の紹介記事によれば、将来的にはケイシーはもっと優秀になり、質問のバリエーションが増えたうえで、多言語対応、音声対応などもするそうです。とはいえ、レプリカント並に賢くなるためには、相当時間がかかりそうに思われます。当分のあいだは、人間様にワインを選んでもらったほうがよいでしょう。
<参考サイト>
https://www.wine-searcher.com/…/10/ai-know-there-s-an-answer
********************************
立花峰夫:
ワインスクール「アカデミー・デュ・ヴァン」スクールマネージャー。
ワインライターとして専門誌に寄稿も行う。訳書・監修書多数。
********************************