恥ずかしながら、服装には無頓着です。若いときはそれなりにそうでもなかったのですが、「もういいや、ダサくても」と思ってから早20年。布袋ワインズさんから頂戴した、ワイナリーのTシャツばかり着ているようなコになってしまいました。そんなワタシが仮にある日、「おしゃれな男になりたいなあ」と突然思ったとしても、そう簡単にはいきません。どこで、どんな服をいくらで買い、どう組み合わせたらいいかが皆目わからないからです。お金のあるなしではなく、センスの問題なのですが、このセンスというやつは一朝一夕には身につかないのが難しいところ。そこで、ファッションの世界には、パーソナル・スタイリストという職業があります。タレントや俳優さんにつくスタイリストのサービスを、個人向けにしたもので、お買い物につきあってくれたり、コーディネートや着回しについてのアドバイスをくれたりするのです。便利ですね。
ワインについても似たようなことがあります。洋の東西を問わず、高級ワインが富裕層のステイタス・シンボルになって久しいのですが、「カッコよくワインを飲みこなすヒト」になるためには、センスと経験が必要なのは皆様ご存じのとおり。そこで、「突如ワインに目覚めてしまったが、どうしていいかわからないお金持ち」向けに、いろんなアドバイスをしてあげる職業というのが成立します。欧米や中国には、けっこうそういう仕事の人がいるみたいでして、下記のElin McCoyの記事に詳しく紹介されています。
「Wine Whisperer」(ワインの助言をささやく人)と、McCoyが呼ぶこうした人々は、実にいろんなサービスを提供してくれます。顧客のために珍しい高級ワインを探して仕入れてくれるなんてのは当たり前ですし、個人セラーの在庫管理をして、いま何を飲むべきなのかについてもアドバイスをくれます。レストランにいるときに、携帯から電話をして「何頼んだらいいの?」と聞くことだって可能。エルミタージュ・ラ・シャペル1961、ラ・ターシェ1985なんかがぞろぞろ出る予算1000万円のワイン・ディナーだって段取りしてくれますから、友達を集めて「エッヘン、すごいだろう」と悦に入ることもできます。そのほか、下記記事の中には「シャトー・ル・パンでのランチ」とか、「コールドプレイ(イギリスの人気ロックバンド)のメンバーとワイン会」とか、かなり難易度の高いイベントの企画事例まで紹介されていました。
富豪向けのサービスですから、もちろん安くはありません。顧問料的な固定報酬だけでも、月に何十万円の単位で取られます。まあでも、個人資産ウン十億円、ウン百億円のお金持ちにとっては、ハナをかむティッシュぐらいの金額ですよね。一方、商売としてはなかなか実入りがいいようです。人気のWine Whispererは、ひとりでたとえば25人とかの顧客をもっているそうなので、一人あたり年間300万円の顧問料をもらえたとすると、年商7500万円。極端な話、PC一台と携帯電話があればできる仕事ですし、集客も口コミでするのがフツウだそうですから、ほとんど経費らしい経費はかかりません。もうかってしょうがないでしょう。
とはいえ、ワインを知ってさえいれば、誰でもできる仕事というわけではないですね。特殊な要望をもつ特殊な人たちを相手にするのですから、相応の経験とノウハウが必要に決まっています。お金持ちは一般にワガママですから、顧客対応上の気苦労も相当に多いでしょうし。デパートの外商さんとか、そういうバックグラウンドの人に向きそうです。日本にもいるのかしら、Wine Whisperer?
<参考サイト>
https://www.bloomberg.com/…/meet-the-wine-whisperers-fancy-…
********************************
立花峰夫:
ワインスクール「アカデミー・デュ・ヴァン」スクールマネージャー。
ワインライターとして専門誌に寄稿も行う。訳書・監修書多数。
********************************