缶ワイン、日本市場でもちらほら見るようになりましたね。布袋ワインズも、ヘッド・ハイというピノ・ノワール100%の缶ワインを販売しています。アメリカ市場では結構なブームになっていて、昨年時点でアメリカ産缶ワインのブランド数は100ほど、2015年と比べて約8倍になっているそうです。いまだ、アメリカのワイン市場全体の0.4%を占めているに過ぎませんが、調査会社ニールセンのレポートによれば、今年6月までの1年間に、数量ベースで49%も伸びているそうですから、いかに急成長しているセグメントかというのが伺えます。なお、同じ1年間の成長率、価格ベースでは69%だそうなので、高品質・高価格化というのが、この調査から見てとれるもうひとつの傾向です。今年7月には、カリフォルニアで「第1回国際缶ワイン・コンテスト International Canned Wine Competition」なるものも開かれており(下記URL)、アメリカ、フランス、イタリア、スペイン、アルゼンチン、オーストラリア、ニュージーランド、イギリスから200銘柄以上のエントリーがあったとのこと。200もあるとはちょっと驚きですな。
https://cannedwinecompetition.com
アメリカ産缶ワインのはしりは、2004年にコッポラ・ワイナリーが世に出した「ソフィア・ブラン・ド・ブラン」でありまして、容量187mlのアルミ缶、ストロー付きで売られていました。ヘッド・ハイの販売担当であるクリス・マットソンによれば、それ以前の時代、1980年代から缶ワインというのは存在したそうなのですが、後に述べる技術的な問題がうまく解消できず、普及しなかったそうです。で、その問題が世紀の変わり目あたりに解決されたので、2004年にコッポラによる缶ワインが鳴り物入りで登場したのですが、その時のワイン飲みの印象は、「ふーん」という程度のものだったかと記憶しています。そしていま、缶ワインのブームが起きていますよ、と聞かされても、その反応はやはり「ふーん」でしかありません。というのも、アルコール飲料容器としてのアルミ缶というものが、わたしたちにとって、あまりにありふれたものだからです。
ビール類(発泡酒など含む)もチューハイ的飲料も、いまコンビニやスーパーで売られているのはほとんどがアルミ缶。食品産業新聞社が発表している、2017年のビール容器別出荷本数の統計によれば、缶と瓶の比率は約3:1。ここに発泡酒なども入れると、この比率は約9:1にもなります。缶が圧倒的に多いのですね。いまだ、ビール愛好家の中には「ビールは缶より瓶が旨い」という人はそれなりにいますし(中身は基本的に同じものですが)、クラフトビールの類いは缶より瓶が今も一般的な容器ですが、家庭での消費を考えた場合、瓶より缶のほうがはるかに手軽・気軽です。容器自体が軽いですし、カラになったら簡単に潰せるのでゴミも瓶のように嵩張りません。缶の場合、冷蔵庫から出してプシュッ、コップなしで飲めますし(瓶は栓抜きがいるものが多い)、缶は瓶より熱伝導率が高いので、冷蔵庫に入れたあと早く冷えてくれます。
そんなわけで、そう遠くない未来に、比較的安価なワインはそのほとんどが缶入りになるのではないかという予想図も描けるのですが、これってよく考えてみると地殻変動並にスゴイことであります。ワインの世界は何事もスロー、アナクロでありまして、ガラス瓶とコルク栓という17世紀に発明されたパッケージングがいまだに主流、21世紀になってようやくその栓について、やれスクリューキャップだの、やれDIAMだのと言い出したところなのです。それなりの値段がするワインについては、クラフトビールと同じで今後も瓶が主流であり続けるでしょうけれど、気軽に飲むワインは容器も気軽な缶でいいよな、と個人的には感じます。サイズについても、250mlや375mlならば、750mlの瓶のように、「飲み残しの保存をどうするか」という業界的には大事なアレも、ほとんど考える必要がありません。また、エコな観点でも缶は瓶よりも優秀で、同じ容量でパッケージを比較した場合、瓶ワインは缶の1.57倍重く、1.63倍嵩張るのです。ただでさえワインのような液体は重いので、それを船や飛行機で運ぶとけっこうな二酸化炭素排出量になるわけでして、せめて容器ぐらい軽くしてもバチは当たりません。「スクリューキャップより天然コルクのほうが、二酸化炭素排出量が少ない」とかドヤ顔で言っているワイン生産者には、「ほんなら缶に詰めんかい」と突っ込んでもいいかもしれません。
とはいうものの、ワイン×アルミ缶という組み合わせには、まだまだ解消すべき問題があります。そもそも、缶ワインの実用化・普及がビールよりも遅れたのは、ワインに含まれる強めの酸、酸化防止剤のSO2、比較的高いアルコールなどが、アルミ素材との相性が悪いからだそうなのです。缶メーカーは、内側をコーティングする樹脂を工夫することで、これらの問題を解消してきたのですが、いまもいわゆる「賞味期限」は缶詰め時期からそう遠い未来ではないため、高級瓶詰めワインのように、何年も熟成させて飲むという状況は想定されていません。ま、缶ビールを何年も「熟成」させて楽しむビール飲みなどほぼ皆無でしょうから、お手軽ワインなら問題ないと思いますけどね。ただ、こうした技術的な問題はおそらく将来的には解消されるのでしょう。天然コルクなどで栓をした瓶とちがって、缶はほぼ完全な気密容器(なおかつ光も完全に遮断)ですので、熟成パターンが瓶とは違ったものになると想定されますけれど。
さて、現在の缶ワインは、どういう消費者をターゲットにしているのでしょう。前述のクリス・マットソンによれば、ズバリ「若者たち」でして、その理由として次の4つを挙げています。
1. 可処分所得が少ないので、高い瓶詰めワインを買えない
2. お手軽を好む
3. 欲しい量だけ飲みたい
4. 外で飲むのが好き
50手前にもなって、全部当てはまるワタシって・・・・・・と少々情け無くなりますが、とはいえアメリカでも缶ワインは「おっさん・おばちゃん」たちにもそこそこ売れているそうなので、それほど悲しまなくてもいいかもしれません。缶ビールや缶チューハイなら、おっさんやおばちゃんも、若者と同じように飲んでますしね。
最後に、缶ワインはどうやって飲むべきかを考えましょう。いまだ多くのブランドが、「グラスに入れて飲む」ことを推奨しているようですが、将来的には「缶から直接飲んでよし」になるかと思われます。なぜなら、グラスに注いで飲むのは、まあまあめんどいからです(屋外で飲むような場合は特に)。実際、布袋ワインズが輸入するヘッド・ハイは、「缶から飲むほうが美味しくなるように」味の設計がされているそうでして、先日行われた東京でのセミナーにおいても、「直接飲み」を支持する参加者のほうがかなり多かったのが印象的でした。
今年もようやく秋らしい気候になってきましたので、ピクニックやバーベキュー、ハイキングのお供に缶ワインはいかがですか?
●ヘッド・ハイ 商品紹介ページ
http://www.hoteiwines.com/wines/product_detail.cfm…
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立花峰夫:
ワイン専門翻訳サービス タチバナ・ペール・エ・フィス代表。
ワインライターとして専門誌に寄稿も行う。訳書・監修書多数。
(タチバナ・ペール・エ・フィス: http://www.tpf.kyoto.jp)
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