このほど、「ワイン業界 初老連合会」というNPOを結成しました。発起人のワタシは筆頭理事を務めています。自発的な入会も受け付けていますが、知人・友人で、当方が初老認定をした人は強制加入です。実年齢で線を引いているわけではなく、老眼、白髪、加齢臭、歯槽膿漏、性欲減退、飲酒時の寝落ち、胸焼け・胃もたれ、「あれ」「それ」といった指示代名詞の多用など、初老を初老たらしめている属性がいくつか当てはまるようになった際に、晴れて「認定」となります。主たる活動は、病気・加齢ネタや昔話、および若者の悪口をシェアすること。理由がはっきりとはわかりませんが、女子に加入拒否者が多くて困っています。いずれ、ウェブサイトを作成して、拒否者を含めた加入メンバーのリストを公開しますので、しばらくお待ちください。
なお、東京のワイン業界には、「女豹の会」なる職業婦人の団体があり、定期的にサバトな会合を開いているという噂があるのですが、誰に聞いても「知らないほうがいい」と、眼を伏せて言葉を濁します。初老連合会とジョイントできないかと考えていますので、情報提供をお願いできれば幸いです。
さて、ワタシたちワインを仕事にする人々、およびシリアスなワイン愛好家にとって、ある意味で最も大切な感覚といってもよいのが味覚と嗅覚です。しかしながら、残念なことにこれらの感覚器官も、老化とともに衰えていきます。生まれたとき、ワタシたちは10,000の味蕾と350の匂い受容器をもっていますが、これはある段階から減少の途をたどるのです。何歳から衰えるか、というのは個人差が非常に大きいので、一概には言えません。が、いずれ誰にもそのときはやってきます。酒の飲み過ぎ、糖尿病や腎臓病は、味覚・嗅覚のロスを助長させるらしいので、健康的な生活を心がけることで、黄昏がやってくるのを遅らせることはできるでしょう。また、経験が蓄積され、記憶の引き出しが増えることによって、若いときよりもワインの識別能力が増したと語るシニア・テイスターもいます。しかし、その記憶の引き出しすらも、やはり加齢によっていつかは失われていきます。
若い人は、「年寄りは薄味の食事を好む」というイメージをもっていますが、これは科学的には間違い。塩味、甘味、苦味を高齢者は感じにくくなるので、むしろ濃い味を好むのです。新生児と比べると、年寄りの口内にある味蕾の数は、3割から5割も少ないのだそう。ワインについても、若者より高齢者のほうが、ガツン系の濃厚なものを好む、ということが言えそうです。本人は変化に気づいていない場合が多いのでしょうけれど、より強い刺激がなければ、若い頃と同じ水準の満足が得られなくなるということかと思われます。
日本を含む、世界の先進ワイン市場が共通して抱える大問題として、「若いやつがワインを飲んでくれない」というものがあります。若者は金を持ってないから、ワインはジジむさい飲料だと思われているから、マリファナのほうが安くて2日酔いにもならないから、など、その理由はいろいろありまして、「どうやったらこうした課題を解決できるか」と、業界を動かす重鎮たちは日々苦悩しています。しかし、もしかすると、ワタシたちは発想の転換をしたほうがいいのかもしれません。そう、若いやつなんか放っておくのです。
国によって差はありますが、若者は頭数が非常に少ない。日本を含む先進諸国はこれから、ますます「年寄りばっかり」の社会になっていきます。「いや、でも年寄りはそのうち死ぬじゃない」と思われるかもしれませんが、再生医療の発展などによって、人間はこの先どんどん長生きするようになるでしょう。「人生150年時代」だって、そのうちやってくるのではないかと。であれば、人口ピラミッドの大きな部分を、これからも占め続ける高齢者を相手に商売を考えるほうが、未来のワイン業界にとっては建設的ではないかと。
この10年、パーカー全盛時代の「濃い味追求」への振り子の揺り戻しで、薄口ワインがどんどんと増えてきました。個人的には「好ましい傾向である」と考えてきたワタシですが、初老連合会の筆頭理事となった今、「これからは、年寄りにも美味しい濃厚なワインを!」と声をあげるべきだという気がしてきました。糖度28度で摘み、アロマティック品種をブレンドし、新樽300%で熟成させ・・・・・・、うーん本当に旨いと思うのかなあ……??
最後に、ジョン・レノンがオノ・ヨーコに贈った名曲、「グロウ・オールド・ウィズ・ミー」の歌い出しを引用しておきます。
Grow old along with me
一緒に齢を重ねていこう
The best is yet to be
最高のときはこれからだ
When our time has come
そのときがきたならば
We will be as one
我々はひとつになれる
God bless our love
神はその愛を祝福してくれる
<参考サイト>
https://www.decanter.com/…/advi…/age-and-your-palate-245607/
https://www.magokoro-bento.com/blog/201901/mikaku.html
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立花峰夫:
ワイン専門翻訳サービス タチバナ・ペール・エ・フィス代表。
ワインライターとして専門誌に寄稿も行う。訳書・監修書多数。
(タチバナ・ペール・エ・フィス: http://www.tpf.kyoto.jp)
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