カリフォルニアワインについて

カリフォルニア州は世界第4位の生産量を誇るアメリカ合衆国の約9割を産出する一大産地で、旺盛なアメリカ国内の需要及び輸出市場を背景に、いわゆるニューワールドワインの国々の中で最も成功している生産地です。安定した温暖な気候から生まれる低価格帯から高額のカルトワインまで、世界最高水準の品質を誇っています。

 

歴史

カトリック修道会であるフランシスコ会の宣教師達が中米より北上、カリフォルニア南部にミッション種を植えたのは18世紀後半。伝導所を建て、ブドウ畑を拓きミサに必要なワイン造りを行いながら北上を続け、現在のカリフォルニア州に現在に続くワイン産業の「種」が植えられてゆきました。

19世紀の中頃、カリフォルニアに金脈が発見されたことからいわゆるゴールドラッシュの時代を迎え、急激な人口増加に伴うワインの需要の拡大に応えるべくぶどう畑も急速に広がってゆきます。その当時からナパやソノマは中心的な生産地として認知されましたが、内陸部にも広大なブドウ畑が拓かれていました。ただしこの時代はまだ品種や栽培、醸造全てにおいて、現在のスタイルとはずいぶん異なったものでした。

19世紀の後半、フィロキセラにより大きな被害を受け、その後立ち直るまもなく1919年悪名高い「禁酒法」の時代がやってきます。この法律は商業的なワイン造りを禁止する一方でホームメイドワイン製造を年間750リットル(!)まで事実上認めていたため、ぶどう畑自体はこの時代栽培面積が約2倍に増えましたが、ワイン産業は壊滅的な打撃を受けました。

禁酒法が廃止となった後も第二次世界大戦などにより苦難の時代が続きますが、戦後復興の時代になると、高品質なブドウで素晴らしいワインを造ろうとナパ、ソノマに優秀な造り手が徐々に集まり始めます。国際品種と呼ばれるカベルネやシャルドネなどのブドウ栽培が広がり、今日に続く高品質ワインの礎が築かれてゆきます。

1976年 にアカデミー・デュ・ヴァンの創設者、スティーブン・スパリアによって後に「Judgement of Paris / パリスの審判」と呼ばれるフランス VS カリフォルニアのブラインド対決が行われ、大方の予想に反し、白はCh. Montelena、赤はStag's Leap Wine Cellarsという当時無名だったカリフォルニアワインがボルドーやブルゴーニュの最高級ワインを押さえて優勝するという、あり得ない「奇跡」を起こします。米TIME誌に掲載されたこの小さな出来事は、審査員がすべてフランスでもトップクラスの著名テースター達だったこともあって、徐々に世界中に広まり、"NAPA"の名が世界に轟き始めます。(詳細は当社カタログをご覧ください。)

この事件によってカリフォルニアは当時「フランスだけが素晴らしい」と信じ込んでいた世界中の人々の目を覚まさせ、高品質なワイン産地として名を連ねるようになったばかりでなく、同時に世界中のニューワールドワイン産地に勇気を与え、今に続く新世界ワインの時代の先駆けとなりました。

 

風味のスタイル

ヨーロッパの寒冷地のワインなどと比較すると、一般的に果実味などの風味がより豊かでアルコール感も高いボリュームのあるスタイルになることが多いですが、後述する寒流の影響や造り手のスタイルにより、非常にエレガントなタイプのワインも数多く存在します。気候風土・品種・造り手のスタイルの組み合わせにより様々な風味を持つワインを楽しむことができます。

 

気候風土

温暖で比較的乾燥し安定した気候に育まれた熟度の高いブドウから、伝統的なヨーロッパ産地とはまた違った個性を持つ素晴らしいワインが数多く生まれています。カリフォルニアワインを生み出す気候風土には大きく分けて4つのポイントがあります。

  1. 地中海性気候

    カリフォルニアは地中海沿岸に似た「地中海性気候」と呼ばれる気候パターンをもっています。特徴は、温暖で乾燥し安定していることで降雨量は比較的少なく、冬季に集中して降ります。 ブドウの生育期にほとんど雨が降らないカリフォルニアはカビや病害虫に冒されにくく、ブドウが健全に完熟しやすい環境にあるため、農薬類の使用も比較的少なくて済み、健康な果実を収穫することができます。 また年ごとの品質のばらつきも比較的少なく(もちろん年ごとにヴィンテージの個性はありますが)、ヴィンテージによる味わいの差を出来不出来では なく、純粋に「個性」として楽しむことができます。

  2. 寒流

    アメリカ西部に位置するカリフォルニア州は太平洋に面しており、そこにはアラスカから下りてくる非常に冷たい寒流が流れており、沖合で水面に湧き上がっています。温暖な気候を有する陸部とこの冷たい還流との温度差が非常に大きいため、海からの距離によって気候が大きく変わるのがカリフォルニア州の特徴です。南北の緯度よりも「海から近いか、遠いか」の方が、ワインの味わいにより大きなインパクトを与えます。

  3. 温暖な気候と冷たい海が出会うことによって、カリフォルニア名物の「霧」が発生します。霧は陸地で発生する上昇気流による気圧差によって海上から内陸に向けて低地を這うように流れ、これにより強すぎる日差しが和らげられて適度に熟したブドウを得ることができます。霧はある程度の高さまでしか上がることができないので、霧の下にあるぶどう畑は午前中日差しが遮られるのに対し、霧の上にあるぶどう畑には一日中強い日差しが当たります。この環境の違いもブドウの風味に大きな影響を与えます。カリフォルにワインを語る上で欠かせない霧。真夏でも霧が立ち込める朝はコートやジャンパーを着こまないと寒くて外に出られないほどですが、これがワインに完熟した風味とエレガントな酸を与えるのです。この霧がなければカリフォルニア州は砂漠化していたかも知れません。

  4. 複雑な地形と土壌

    カリフォルニア州は太平洋プレートとアメリカプレートの境目に位置し、常にこの2つのプレートはぶつかり合い沈み込んでいるため、地震も多く日本とよく似た環境です。また地形は起伏に富み複雑な土壌構成が見られます。ナパ・ヴァレーは最近の調査で約33種類の土壌が複雑に絡み合い約100種の土壌バリエーションで構成されていることが判明しました。これは世界中に存在する土壌パターンの約半分に相当する驚くべき数字です。昨今優秀な生産者達はこの土壌の種類ごとに異なる品種を栽培するようになっており、さらに複雑な個性を表すワインが増えています。土壌の個性と地勢(傾斜や標高)によりさらに風味のバリエーションが増えます。

 

ナパとソノマはどちらが涼しいか?

多くの方からこの質問を頂きます。これは「スペインとイタリアはどちらが温暖か?」と尋ねられているのと同じぐらい難しい質問で、これに答えるためにはまず、フランスなどの伝統的産地との根本的な考え方の違いを理解頂く必要があります。

多くの愛好家やプロがフランスワインから入門する日本におけるワインの世界では、ブルゴーニュとボルドーのは気候風土とブドウ品種の違いによりまったく違う個性を持っていることはよく知られています。しかしカリフォルニアにおいては太平洋を流れる氷のように冷たい寒流とそこから発生する霧の影響が、ブドウの成熟に非常に大きなインパクトを与えます。

ソノマの太平洋沿岸は非常に寒く、スパークリング用のブドウやシャルドネ、ピノ・ノワールが栽培されることが多いのに対し、同じソノマでも冷たい海から離れた内陸部では、カベルネやジンファンデルの広大な畑が広がっています。つまり「ソノマの味」という共通した風味はなく、ソノマのどこに位置しているのか(冷涼なロシアンリヴァーヴァレーなのか、温暖なアレキサンダヴァレーなのか等々……)こそが重要で、それがロワール地方と南仏と同じぐらい大きな違いとなって表れます。ボルドー=◯◯、ブルゴーニュ=△△といった具合に地方名AOCとブドウ品種、風味をリンクさせながら勉強を重ね、そこからさらにその地方内の微妙な風味の違いを追求するフランスワインの愛好家やプロが混乱する最大の理由がここにあります。

ナパ・ヴァレーも同様、サンパブロ湾に近いオーク・ノールと、最北部のカリストガではブドウの成熟度が全く違います。「ナパ」と一言で括られることの多いエリアですが、そこには気温、日照、土壌などが複雑に絡む多様性が存在します。「冷たい海からどれぐらい離れているのか。霧の影響をどれぐらい受けるのか。」が、数あるカリフォルニアのテロワールの要素の中でワインの味わいに最も大きな影響を与える要因となります。

これは他のエリアも同様で、この仕組を知ることによりカリフォルニアワイン全体に対する理解が高まりますが、残念ながら数多あるヨーロッパの伝統産地を学べる教室や書物などに比べ、これらカリフォルニアワインの基礎をしっかりと学べる機会が日本にはほとんど無いのが現状で、これがこの産地に対する正しい理解を遅らせています。

ソノマ=冷涼、ナパ=温暖などといった明らかに間違ったイメージを持つより、少し乱暴な言い方ではありますが、「ソノマの中にフランスのほぼ全土のワイン産地が入っている。」というイメージを持つほうが、現実に近いかも知れません。つまり、ナパとソノマは場所によって温暖でも冷涼でもあるのです。

 

ニュー・カリフォルニアワインの潮流

カリフォルニアワインはその温暖で安定した気候を活かした果実味溢れるリッチなスタイルが長年人気を博してきました。しかし近年主にアメリカ東西海岸の都市部を中心に食文化の変化が起きており、より素材重視で健康志向な料理が若い世代の人々を中心に人気を集めています。またワインの造り手も世代交代が進み、よりエレガントなスタイルにシフトするワイナリーが増えてきました。

そんな新たな潮流を後押ししたのがアメリカで大きな人気を集める新世代のワインジャーナリスト、ジョン・ボネでした。彼の著書“The New California Wine”はアメリカ国内のみならず世界中で大きな話題を呼び、食生活やワイン造りの現場に大きな影響を与えています。

そのコンセプトは、

  1. 濃厚な風味のワインではなく、低アルコールでエレガント、長期熟成可能なワイン
  2. 1960~1970年代にカリフォルニアで造られていたクラシック・スタイルへの回帰
  3. 国際品種のみならず、多様なブドウ品種の可能性へのチャレンジ
  4. 旧世界の技術を尊重しつつもヨーロッパの模造品ではない個性的なスタイル
  5. テロワールの重要性に敬意を払い、カリフォルニアらしい太陽の恵みを感じさせるワイン
  6. 少量生産だが一般の愛好家にも手の出る価格帯

といったもので、つまり“ニュー・カリフォルニア”とは「昔に戻ろう」というメッセージであるとも言えます。

近年はワイン評論家だけでなく、人気レストランのソムリエ達の影響力が年々増しており、ワイン造りに影響を与えるようになってきました。もちろんそれはカリフォルニアワインのスタイル全体が変わってしまうということではなく、重厚なスタイルのカベルネやシャルドネ、果実味溢れるピノ・ノワールは今後も人気のワインとして人々に愛され、そこにエレガント志向の新たな流れが加わることでより多様性を楽しめる時代になってゆくことを意味しています。今後はこれまで以上に寿司、刺し身、天婦羅を始めとする繊細な日本の伝統料理にも幅広くマッチするワインが次々に登場することでしょう。今後もこの新たな潮流から目が離せません。